藤本真由オフィシャルブログ

 月組娘役陣の奮闘が光る公演だった。ブロードウェイ・ミュージカルの宝塚での久々の再演となった「グランドホテル」は、エリザヴェッタ・グルーシンスカヤ役の愛希れいかが素晴らしい。作品のオリジナルの演出・振付を担当、今回の公演の特別監修を務めたトミー・チューンが、彼女を評して「ブロードウェイに連れて帰りたい」と言ったそうである。連れて帰られては困る。愛希れいかは今の宝塚きってのショースターであり、名トップ娘役の系譜にその名を刻みつつある人なのだから。踊ること、生きることへの情熱を失い、何度目かの引退公演を行なっているプリマ・バレリーナの役どころは、愛希の実年齢からすれば年齢的にかなり開きがあるが、彼女は想像力でもってその間隙を見事埋めてみせる。思えば「1789」でマリー・アントワネット役を演じたときも、物語の後半、王妃として、母として、妻として目覚めた後の演技がひときわ優れていた。若くして入団、トップ娘役に就任した彼女だけれども、その立場に就き、多大なる責任感をもって舞台を務めるうちに、大人の女性を演じられる役者になっていったのである。心から共感を寄せることのできる、素敵な大人の女性を。グルーシンスカヤは恋に落ち、生への情熱を取り戻し、言う。「私、踊りたいの」と――。わかる! 私自身、舞台と、舞台上の役者の演技と、“恋”に落ちると書きたくなるのである。だから今、こうして書いている! ブロードウェイ・ミュージカルの大好きなナンバーのベストスリーに入る「Love Can’t Happen」を愛希が歌うのを聴いていたら――、同じモーリー・イエストンが作詞・作曲を手がけたミュージカル「ファントム」の名ナンバー、「You Are My Own」が鮮やかに甦ってきた――壮一帆がキャリエールを演じてその曲を歌ったとき、やはり書いた、その“聖痕”は今も心にくっきり刻まれている。恋に落ちたときめきを少女のように無邪気に歌う「Bonjour, Amour」も実にヴィヴィッドである。愛希自身は少女の方に近い年齢かもしれないけれども、等身大で演じるのではなく、ちゃんと、一人の大人の女性の中にひそむ少女を描き出してみせる。その少女は女性誰しもの心の中にひそむ存在であるのかもしれないと思わせてくれるほどに。
 レヴュー「カルーセル輪舞曲」では、愛希が、月組組長・憧花ゆりの、夏月都、玲実くれあ、白雪さち花といった強力月組娘役陣と共に歌い踊るニューヨークの場面が、20年代のフラッパーガール風のコケティッシュさとセクシーさが満載で、秀逸である。この場面で、時代のセックス・シンボル、ルイーズ・ブルックスばりのおかっぱの黒髪で妖艶な魅力を放っているのが、今回惜しくも退団となる咲希あかね。踊れる娘役として活躍してきた彼女は、険しい崖に一輪、しなやかに逞しい生命力をもって咲く白い花の風情をたたえている。下級生時代から、どことなくさみしげな美貌の持ち主だな…と気にかかる存在だったのだが、学年が上がると共に芸をますます磨き、月組を強力に支える娘役陣の一人として、表情も明るく光り輝くようになった。と思いきや、退団である――。大階段をバックに繰り広げられるフィナーレナンバー、白いドレスを着て優雅に踊る彼女の姿はしみじみ、美しかった――。
 踊るのが楽しくてたまらない! といった表情でいつもはつらつとした踊りを見せてくれていた男役、貴千碧も退団である。中詰のブラジルのサンバのカーニバルの場面では、銀橋上、夏月都と白雪さち花という濃ゆい娘役二人に挟まれ、やはり明るい笑顔ではじけていて、何だかひときわ心に残ったことだった。