藤本真由オフィシャルブログ

プレトニョフ指揮、ロシア・ナショナル管弦楽団のベートーヴェン「運命」
 9日19時の部、サントリーホール大ホール。
 「ダダダダーン、ダダダダーン」。あまりに有名な出だしに続く一節を聴く私の胸に浮かんだのは、同じくあまりに有名なシェイクスピアの「ハムレット」のセリフ、「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」だった――。
 「生きるべきか死ぬべきか」、すなわち、「いかに生きるべきか」。時を変え形を変えてその問いが繰り返され、暗い嵐と荒波の中ただただ翻弄される小舟のように感情が振幅する第一楽章を経て、第二楽章、幸せな過去への追憶が始まる。生きとし生ける者が一度は味わう、無条件に幸せな過去。私は楽聖の優しい腕に抱かれて彼と優美なステップを踏み、やがて、その手に促されて、晴れがましい栄光のソロを披露する。
 だが、晴れがましい瞬間は長くは続かない。心に憂いが忍び寄る。絶望が心を打ちのめす。打ちのめされて、打ちのめされて、私の瞳に楽聖の姿が映る。何度打ちのめされようと必ずや立ち上がる、不屈の精神の持ち主。その姿が、こう語りかけてくる。
 ――絶望の果て、道に迷ったときは、上空から己の姿を俯瞰しなさい。己の進んできた道を、振り返りなさい。そうすれば、見えるはずだ。今の自分が、そう絶望したものでもないということが。
 「いかに生きるべきか」、その問いがない人生など、つまらない。絶望を繰り返して、何度でも打ちのめされて、それでも、進みなさい。これまで歩んできた道の、その先を。そうすれば、いつか、与えられるであろう。己の生と運命とがまったき一体化を遂げる、至福の時が――。

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