藤本真由オフィシャルブログ

“白”の少女〜宝塚・愛原実花を送る[宝塚]
 雪組トップ娘役・愛原実花は実によく白が似合った。白の衣装で登場すると、まるで発光しているように、圧倒的なオーラを放つ。そのままの姿で初日前の囲み会見に現れると、間近で目の当たりにするあまりのまばゆさに、目が、目がまぶしいよう〜と思ったものである。
 囲み会見での彼女は、雪組トップスター水夏希の言葉を、それは真剣な表情で、集中して聞き入っているのだった。「この人の言葉には、一言だって聞き洩らしてはならない、これほどまでに真摯に聞かねばならない重みがあるのです!!!」と全身で訴えるその様子に、宝塚のトップコンビの美点の一つを感じ入らずにはいられなかった。トップスターが歌い、踊り、セリフを語る、その真横に、「そう、その通りです!」と、微笑みや目線で肯定してくれる存在があればこそ、トップスターの一挙手一投足がさらなる説得力をもって客席に届くのである。
 彼女が質問に答える番が来ると、今度は、水夏希が、大丈夫かな、ちゃんと質問意図を理解した答えができるかなと見守っている。何だかまるで、先生と生徒みたいだな……と、何とも微笑ましかったのを覚えている。
 それでいて、組んでのダンスシーンともなれば攻守逆転、妖艶な愛原の踊りに、トップスターが翻弄され、男役としてまた奥深い色気をふりまいてゆくのが、人の関係の不思議を思わせて、興味深くてならなかった。なかでも印象深いのが、「カルネヴァーレ睡夢」の“カナルグランデ 深夜”の場面である。コンテンポラリーの要素が盛り込まれたこのダンスシーンで、愛原の長い腕はしなやかに、雄弁に、魅力を放っていた。かつて、2004年月組公演「薔薇の封印」で、ヴァンパイアの主人公を演じる紫吹淳が、島崎徹の振付による、時を超えるダンスを踊って圧倒したことがある。その時以来となる、宝塚の舞台におけるコンテンポラリーダンスの名場面……と思っていたのだが、その後、愛原が実際に島崎の指導を受けたことがあると知って、何だか一人納得していたのだった。
 「カルネヴァーレ睡夢」では、パンツルックに身を包み、炎の鳥となった水を再び翻弄する“カルネヴァーレU 炎”の場面も印象に残っている。パンツルックでそれは颯爽と踊っても、愛原の表現は決して“男前”とはならない。それは潔くてかっこよい、“少女”なのである。宝塚の娘役には“男前”と“絶対的少女性”の方向性が可能性としてあることに思い至った瞬間だった。
 もっとも、彼女の舞台人としての魅力は、宝塚においてフルに発揮されたとは言い難い。「歌劇」誌で、演出家・小池修一郎が彼女をそれは残念気に送った言葉に、同意する。人生の決断に水を差すものではないけれども、宝塚の舞台で彼女をもっともっと観ていたかった、そう思う気持ちでいっぱいである。

 宝塚大劇場での退団公演中に、愛原は父君、つかこうへい氏を亡くした。それでも彼女は舞台に立った。私は、実家の愛犬が死んだ夜は原稿が書けなかった弱い人間である。彼女が舞台に捧げる真摯な想いを、心から尊敬する。
 演劇人つかこうへいについていえば、私は完璧に遅れてきた世代である。取材の機会がやってくることは、結局、ないままに終わってしまった。
 それでも、一度だけ、氏の素顔にふれる機会があった。氏のとある作品を手がけている演出家と、その主演女優とが交際していて、二人の初めての公式なツーショットを、私が当時勤務していた雑誌で披露させてもらえることになったのである。演出家と私の上司が知り合いだったから、事前に話はついていた。けれども、実際現場に出向くと、どうも雲行きが怪しい。このままじゃ写真を押さえられないな、編集部に帰ったらどんなに怒られるだろう……と内心おびえていたあひる。そこへ、近くでやりとりを聞いていたつか氏が、初めて口を開いてこう言い放ったのである。
「ゲスな感じじゃなきゃいいんだろ」
 “ゲス”という言葉を日常会話で聞いたのは生まれて初めてかもしれない……と思いつつも、私は、その“ゲス”という言葉がまったくもって“ゲス”ではなく、むしろ品のよさと、それでいて、その言葉が当然もつべき凄みを伴って発されたことに、驚いたのである。その一言で現場の空気は一変、まだまだひよこ時代のあひる記者は無事ツーショット写真を入手し、編集部に帰還することができたのだった。もっとも、この話をここで書くのは、何も、つか氏にそのときの恩義を感じていたから、その娘さんを好意をもって見守っていたということでは決してない。氏への感謝の念と、愛原実花という舞台人に魅力を感じるのとは、まったく別の話である。
 私にはずっと、夢があったのである。現在、宙組が全国ツアー公演において、氏の「蒲田行進曲」を原作とする「銀ちゃんの恋」を上演中だが、自身の作品と宝塚歌劇の舞台との比較、宝塚歌劇を舞台芸術としてどう評するか、そして、愛娘を舞台人としてどう評するか、直撃してみたかった。その夢はかなわぬままになってしまったけれども、愛原実花の宝塚卒業にあたって、私は、氏に聞くのではなく、むしろ、氏にきっぱり言うべきなのだろうと思うのである。
 お嬢さんは、魅力的な宝塚のトップ娘役でした……と。
 退団公演の初日前の囲み会見では、水夏希の言葉に耳を傾けるあのかわいらしい姿が見られなかったのが残念である。本当に、本当にお疲れ様。そして、心から微笑むことのできる日が来たら、また舞台に戻ってきてほしいなと……。愛原実花はやはり、舞台に生きる人だと思うから。そのときは、不肖あひるが、お父上に負けない厳しい目で、見ています――。

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宝塚歌劇参考資料(宝塚歌劇 2010-09-14 10:43)
ブログのランキングサイトなんか調べて見ると、ここにも宝塚歌劇について書かれた記事沢山ありました。気になるブログを掲載します。銀ちゃんの恋 / 宝塚歌劇団(阪急電鉄株式会社) (舞台14681さんの感..
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