藤本真由オフィシャルブログ

G.I.オレンジin高円寺
 デュラン・デュランが来ると聞いて、行ってみたら彼らだった。
 メンバー父が印税について理解しておらず、後に振り込まれた金額に驚愕。
 彼らをめぐるエピソードはなぜ、そこはかとないおかしみに満ちているのだろう。――G.I.オレンジ。出身地イギリスではレコード契約が一枚で終了するも日本デビュー、日本列島を回るプロモーション・ツアーを行ない、「夕やけニャンニャン」にも使われた「サイキック・マジック」及び同名アルバムが大ヒット、日本(だけ)でフィーバーを巻き起こす。しかし、スズキ自動車のCMソングに使われた5枚目のシングル「テイク・ミー・トゥ・ユア・リーダー」のリリースを最後に活動停止。日本洋楽史に咲いたあだ花、伝説の一発屋――。
 ちなみに、日本でのみ流行っている洋楽なるものの存在を知ったのはカナダ・オタワから帰国した13歳くらいのころである。当時のあひるはお小遣いをやりくりしていかにたくさんのアルバムを買うか腐心する中学生だった。そんなとき、祖母の家で見たテレビ神奈川の洋楽番組で、ナショナル・パスタイムなるバンドの曲「イッツ・オール・ア・ゲーム」を耳にする。日本で買うよりカナダで買った方が安いと、オタワに戻る母にカセットテープ(ですよ、当時は)を買ってきてと頼んだところ。
「売ってなかったわよ」
 …ガイジンなのに海外で売っていない。そう、ナショナル・パスタイムもまた、G.I.オレンジに対抗して日本で売り出されたバンドなのだった……。この事実は、少女のあひるの心に衝撃を与え、後に異文化受容について考える契機となった(大げさ)。今でも、日本でだけ有名なフランス人歌手もいたりしますが、それはさておき。
 決して熱烈なファンというわけではない。けれども、G.I.オレンジのことは長年、ずっとあひるの心の中にあった。異国で一世を風靡するも、出身国では無名。――いかなる心境なのだろうか。日本で起きた出来事を語るも、イギリスでは信じてもらえないとか? 彼らのことを考え続けるあまり、いつの日か、あひるの中で一つのストーリーが動き出した。日本で一曲だけヒットを飛ばしたバンド、そのヴォーカルが、年月を経て日本に戻ってくる。あの熱狂の日々を、そして、そこで出逢った人々との絆を取り戻すために――。誰に語るでもない、文章にすることもない、ただ、自分一人であれこれ想像し、楽しむ物語。あひるが考え出したのは、日本に出稼ぎに来たガイジンの、哀感ただよう魂の再生の物語だった。しかし。G.I.オレンジは三兄弟プラスドラマーという編成なのだけれども、三兄弟の父は富豪であることを知らなかった。そして昨年秋、衝撃の発表。
 日本デビュー30周年記念ライヴを高円寺で開催!
 G.I.オレンジが、あひるのホームタウン高円寺に! G.I.オレンジ。高円寺。日本語だと微妙に脚韻。チケットも発売日に無事取ることができ、あひるは、1月11日の夜、会場のKoenji HIGHに向かったのだった。徒歩で。ちなみに、夫と弟にライヴに行くと告げたところ、反応は同じ。
「え〜、G.I.オレンジが高円寺に〜〜〜!?」
 そして歌う。
「♪サ〜イキック・マ〜ジック」
 二人とも、そのフレーズは歌える。しかし。そこしか歌えない。あひる唱和。
 さて、会場のキャパは300人くらいだそうで、なかなかの入り。年齢層はあひると同じくらいかそれより高め。開始時間は19時。シャーリーテンプルを飲みつつ待つ下戸のあひる。…始まらない。だんだん不安になってくる。あの人たちの存在は幻だったのでは? かつてフィーバーが起きたというのも、実はすべてが誰かの妄想だったのでは? ――大げさである。しかし。何しろ幻のような存在である。何だか必要以上にドキドキ。…と、前方スクリーンに動きが! 「入力」「名前」なんて文字が最初に画面に出たりして、手作り感満載。そして、「サイキック・マジック」のメロディにのって、かつての彼らの映像や画像を組み込んだイメージ映像が流れ出す。しかし。歌の一番で映像が終わるかと思いきや、そのままたっぷり二番まで。いや増す不安。曲が終了。そして! 再び流れ出す「サイキック・マジック」のイントロ! 会場全体から湧き起こる失笑。
「これだけで終わっちゃったらどうしよう〜」
 …きっと、多くの人が思っていたことであろう。
 「サイキック・マジック」をリピートしてのイメージ映像、今度は現在の彼らがフィーチャーされていた。ただ、いきなり30年経った姿で現れても、以前の姿と結びつかない。ええっと、これは誰? そんなことを考えているうちに映像は終わり、遂にメンバーがステージに登場!
 しかし! 一曲目が「サイキック・マジック」じゃない(驚愕)! …いや、最初と最後とアンコールに「サイキック・マジック」を聴くくらいの覚悟はあったので。昨年12月、デビュー・アルバム「サイキック・マジック」に新曲2曲を加えてリマスターしたCDが発売されていて、新曲を交えつつその一枚きりのアルバムからの曲を。ちなみにこのアルバム、廃盤になってしまったCDに一時期2万円近い値がついていてさすがに手が出せず、カセットテープを聴いていたあひる。なじみのある曲ばかり。そして近くに、手拍子やら掛け声やら、合いの手が完璧な男性ファンがお二人も。みんな、長年やり場のなかったG.I.オレンジへの想いを今夜、思う存分発散している! 負けられない! 俄然気合の入るあひる。日頃の運動不足を解消せんとばかりに、歌い、踊り、跳ねる。…久しぶりのスタンディングなので、割とすぐヘロヘロに。だが踏ん張る。サード・シングル「ワン・グッド・キス」演奏の前には、ヴォーカルのカールが、「日本のテレビ番組に出たとき、こういう振りがついたんだけど、みんな一緒にやってみて」と。「ワン」で右人差し指を口の近くに立て、「グッド」で両手を頭の上で○、「キス」で投げキス。「そしたら僕は立ち去るよ」で、後ろを向く振り。…ちょっと恥ずかしい。そして自ら間違えるカール。その後ろにいる弟のキーボード担当マークは、なぜかスマホをペンライトのように振ることを何度も会場に求め、自分は誰かに電話する真似をするというコントとも何ともつかぬ振る舞いを連発、客席の撮影も。「テイク・ミー・トゥ・ユア・リーダー」演奏の際には、「80年代に出した最後のシングルなんだけど、覚えてる人?」と問いかけられ、威勢よく手を挙げるも、「あ、覚えてる人少ないみたいだね」。…思いっきり少数派だった。そしてこの曲のサビ、「オーオーエイアイオー」というトライバルな掛け声を求められ、半ばヤケのように合唱。そして! ラストから二曲目、待ってましたの「サイキック・マジック」! 会場全体、「♪サ〜イキック・マ〜ジック」の大合唱。それにしても、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」風コーラスが入ったりして、どことなくスピリチュアルな不思議な歌…。最後の曲は彼らのテーマ曲、「G.I.オレンジ」。「G.I.オレンジ いつも心に〜」と始まり、サビは、「さあ カモン G.I.オレンジ/君の声で聞かせてくれ」。……。かつてボーイズ・アイドル評論家を志していたこともあったあひるが思うに、“アイドルは連呼する”。選挙カーのように、自らの名を。ワム! もテイク・ザットもSMAPも連呼した。「ワム・ラップ!」ではサッチャー政権下の若者の失業問題が歌われ、「テイク・ザット&パーティ」はノリノリ、「SMAP#2」はユーフォリックな永遠の青春を思わせる秀逸なアイドル・ソング。さて、「G.I.オレンジ」はといえば、…ユーフォリックを通り越して、ノーテンキである。「♪G.I.オレンジ〜」と手を振り上げながら、あひるは不思議だった。…どうしてこんなノーテンキな曲を作る人たちから、哀感ただよう物語なんか想像してたんだろう…。それは、己が暗いからじゃ〜〜〜!
 すぐさまアンコールが始まり、さっきやった「ワン・グッド・キス」(振りつき)と、さっきやったばかりの「サイキック・マジック」を。会場に「♪サ〜イキック・マ〜ジック」のコーラスが任されたが、コール&レスポンス的なところがあるため、会場がコーラスをやめない限り曲がエンドレスに続くという…。アカペラで、延々と高円寺に響き渡り続ける「♪サ〜イキック・マ〜ジック」のフレーズ。カールが「終わり」と手で制さない限り、みんないつまでも歌い続けていたことであろう…。
 終演後、CDもしくはTシャツを買った人対象にサイン会が行なわれていて、会場ほぼみんな残っていたけれども、…あひるはそういう熱心なファンというわけではない気もして、帰りました。考えてみたら、会場に残って誰かとお話ししていれば、「『サイキック・マジック』って、『愛が生まれた日』で紅白歌合戦に出た大内義昭が在籍していたデュオDU-PLEXが、男女あべこべみたいな不思議な歌詞で日本語カバーしてたんですよね」とか、マニアックすぎる話題で盛り上がれたかもしれないけれども…。おうちまで徒歩10分、近所のスーパーの閉店時間にも間に合い。それにしても、こんなにも彼らと地続き感を味わう日が来るとは…。G.I.オレンジ。あだ花とか一発屋とか言ってごめん。あひるの心に長年、こんなにもさまざまな想像をかきたててくれて、こんなに楽しい時間をくれて、本当にありがとう! これからは、日本で一曲だけヒットを飛ばした富豪バンドのメンバーが、年月を経て日本に戻り、お金もゴージャスに使ったりなんかしてさまざまな難題を解決してゆく痛快冒険活劇でも想像して楽しむことにしよう…。あ、それから、ナショナル・パスタイムの再結成ライヴがあったら行きたいです。

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