藤本真由オフィシャルブログ

Kバレエカンパニー「くるみ割り人形」[バレエ]
 12月23日16時半の部、赤坂ACTシアター。スケジュール的にちょっと無理をしましたが、今年も無事、Kバレエの「くるみ割り人形」を観劇できて、ホッ。年末の恒例行事。幅広い層の観客が見受けられ、クリスマスに赤坂ACTで「くるみ割り人形」を観劇するのが定着してきていることを心からうれしく思った次第。
 作品は毎年少しずつ手直しされ、ブラッシュアップされている。今年は、車椅子に乗って登場するクララのおばあちゃんが、立ち上がって、クララたちに囲まれちょっとだけ踊る演出に、…すべての女性はかつて、少女であった…との思いを深くし。
 それにしても。何度観ても心わくわくどきどき、物語の世界に引き込まれてしまう魔法はいったい、どこにあるのだろう…。クリスマスツリーが巨大化し、人形たちとねずみたちの戦争が始まるシーンで、自分が本当に人形サイズに姿縮んで、クララたちと同じ地平にいる気持ちがして…。私はクララだった。くるみ割り人形を助けるため、勇気をふるって見知らぬ世界へと飛び込んでいって、闘っていた。そして美しい雪の国の場面。雪の六角形を表す、鋭角的な振付。激しい舞。舞い散る雪。――カナダに住んでいた少女の頃、雪が降った翌日、家族でクロスカントリー・スキーに出かけ、メープルの木から垂れ落ちるシロップをそのまま新雪につけて口にふくんだ、その冷たいおいしさを思い出した。
 ドロッセルマイヤー役の杉野慧がよかった。クララを異界へと誘う夢先案内人にふさわしい優しさと包容力とを感じさせた。ドロッセルマイヤーはKバレエの至宝、スチュアート・キャシディが初演し、今日まで踊り続けている当たり役だが、くるみ割り人形/王子もドロッセルマイヤーさんも二人とも素敵! というところが、雪の国の前景のクララを交えての踊りの魅力にもつながっていると思うので、2013年からこの役を踊ってきている杉野の成長は非常に喜ばしい。人形の王国では、男性ダンサー陣にバレエ・マスター遅沢佑介の面影を感じることも多く、熱い指導のほどをうかがわせた。
 クララが“夢”から覚める瞬間、――私は、現実から夢へとはっと覚めるような思いがしたのだった。雪の国と人形の王国とで経験してきた冒険、そちらの世界の方が、私にとっては現実であるような。普段“現実”として生きている世界の方がむしろ“夢”であるような。優れた舞台の客席に在るとき、私は、心の世界を生きられる。そしてその方が、私にとっては心地よい現実なのだ。決して“現実”から逃げているわけではない。“現実”をよりよい世界とするためには、現実と“現実”とを地続きにすることが必要である。人々の心の中に本来ある美しさを結集させて、“現実”をよりよい世界にしていく上でも、劇場空間は大きな役割を果たし得る場所であると、今年、熊川哲也の「くるみ割り人形」の世界をクララとして旅して、より一層深く感じたのである。

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