2016年宝塚歌劇ベスト&ワースト、新人賞発表〜[宝塚]
 本年度のベストは花組「ME AND MY GIRL」(役替わり)Bパターン。このBパターンのマリア公爵夫人及び、「For the people−リンカーン 自由を求めた男−」のヒロイン・リンカーン夫人役で好演を見せた仙名彩世が、新人公演ヒロイン経験なしに次期花組トップ娘役に就任するとの発表が、2016年の宝塚歌劇の一番びっくりニュースであろう。
 今年は非常に残念ながらワーストの発表あり。月組公演「舞音−MANON−」「GOLDEN JAZZ」の二本立てである。月組生の頑張り自体は高く評価したい。「舞音」には、…何だか言いようのない気持ち悪さを感じた。「愛と革命の詩」に続き、大石裕香の振付がベッド・シーンで用いられていたが、生々しく露骨な表現なしにラブ・シーンを美しく表現できるところに、宝塚歌劇の魅力があるように思う。かつて一緒に仕事をしていたカメラマンが、男女の舞台においても、具体的にキスした瞬間より、その前後の表情の方が色っぽかったりして、シャッターを切りたくなる…と語っていたのを思い出す。女性がすべての役を演じる宝塚では、実際に唇を合わせたり肌を合わせたりといった表現はないけれども、それでも、ちょっとした表情やしぐさによって、色気やエロスはいくらでも表現できるものだろうと思う。こうしてベッド・シーンでたびたび用いられてしまうと、大石の振付にも何だかよくない色、印象がついてしまうような…。作・演出の植田景子は、「舞音」でも、シェイクスピアの「オセロ」を原作とした「The Lost Glory−美しき幻影−」でも、“純愛による拝金主義の否定”というテーマに取り組んでいたが、「レ・ミゼラブル」のテナルディエ夫婦の描写にうかがえるようなシニカルな視点なしに“この世はすべて金なのさ”というナンバーを大人数で盛り上げてしまうと、かえって拝金主義を賛美しているだけのような印象が残ってしまう。「エリザベート」の「ミルク」が名ナンバーたりえているのは、持たざる者の怒りから始まり、この社会を変えなくてはならない、変えようという変革の楽曲となっているからである。「舞音」は今世紀初頭の仏領インドシナ(ベトナム)のハノイを舞台にしていたが、何だか無菌化された印象で、混沌、猥雑感といった魅力にも欠け…。植田にはバウホール公演では「エイジ・オブ・イノセンス」「オネーギン」といった佳作を生み出してきた実績があり、大劇場公演との相性のよくなさはどうも気になるところだが、これからの活躍に期待したい。「GOLDEN JAZZ」の問題点は、作品自体にではなく、キャトルレーヴで販売しているタンバリンを作中客席で鳴らせるという企画の方にある。鳴らしたい客の自由と、近くで鳴らしてほしくない客の自由とは本来平等であるべきだが、この場合、前者の自由が問答無用で優先されるところに問題がある。私の知り合いは、隣の観客に激しくタンバリンを鳴らされ、観劇翌日まで耳が痛かったと言っていた。ペンライトやポンポンを一緒に振るくらいであれば騒音の問題はないが、音はときに凶器になり得る。一考を要する。

 それでは、2016年度の宝塚歌劇新人賞〜。
 一人目は当然、「ME AND MY GIRL」で素晴らしいサリー役を演じた花乃まりあ(96期)。私の作品観を変えてくれたことは既に記した(http://daisy.eplus2.jp/article/440575223.html)。花乃は残念ながら年明けすぐの東京宝塚劇場公演「雪華抄」「金色の砂漠」千秋楽をもって退団するが、有終の美を期待したい。

 二人目と三人目は、雪組公演「るろうに剣心」での活躍より。
 四乃森蒼紫を演じた月城かなと(95期)は、「♪今もう一度知らしめよう/最強なのは 御庭番衆だと〜」と歌っていた。それも当然、最強すぎるだろう! と思った。何しろここで引き連れているのは、透真かずき、真那春人、久城あす、煌羽レオという、雪組でも腕に覚えありの面々。ちなみにその中の一人,久城(94期)であるが、初めて認識したとき既に芸が達者で、かなりの上級生だろうと勝手に思っていたので、タカラヅカニュースで新人公演で挨拶している姿を観たとき本当にびっくりした(そして「るろうに剣心」では、病気休演者の代役で、既に卒業した新人公演に異例の出演を果たした)。つまりは新人賞カテゴリーを最初からスキップしている人材である。
 さて、そんな最強メンバーのバックからの応援も強みに、月城はここで大きく飛躍した。ニヒルな二枚目役が彼女の整った風貌とも非常にマッチしていた。何よりこの場面、――いい舞台にする!――ということしか考えていない、そんな、蜷川幸雄の舞台に感じたのとも似た非常に純度の高い思いがみなぎっていて、そんな場面を芯で率いる彼女に頼もしさを感じた。男役・月城かなとを必ずやブレイクさせるとの、宝塚座付演出家・小池修一郎の熱い意気込みとシュアーな手腕が光った場面でもある。「ローマの休日」で演じたコミカルな美容師役では、もっとはじけても大丈夫! とも思ったが、いずれにせよ、真面目なイメージのある彼女が新境地を拓いたことは間違いない。芝居作品に比べショーでの押し出しの弱さが気になるところだったが、「Greatest HITS!」ではそのあたりだいぶ改善されたように感じた。鳳翔大と二人、着ぐるみで務めたトナカイ役では日替わりのアドリブも飛ばし、劇場の楽しいクリスマス気分を大いに盛り上げた。来年2月には月組に組替えとなる。月城は前雪組トップスター壮一帆の役を新人公演で二度演じて主演しているが、その壮に加え、かつての月組トップスター天海祐希の面影も感じさせる、さわやかな二枚目の大砲である。新天地での大暴れに期待。
 三人目は、「るろうに剣心」で子役・明神弥彦を演じた彩みちる(99期)。彩は娘役であり、男の子役での新人賞はおかしいと考える向きもあるかもしれないが、何しろその舞台に惚れた。この人の舞台をもっと観たい! と思った。声も工夫し、本当に男の子が一人まぎれこんできたかのようで、上級生相手の銀橋での芝居も堂々とこなし、末恐ろしさを感じさせた。彼女のチャーミングな活躍が「るろうに剣心」の世界に一風の新味を加えていたことは間違いない。
 ちなみに、彩を初めて認識したのは、「るろうに剣心」の前作「La Esmeralda」のロケットでセンターを務めていた際。踊りながら、いきなり、客席に向かってそれは必死な顔でウィンクを連射!!! ――珍しい娘役もいるものだな…と思った。そして激しく気になった。だいたい名前が「みちる」である。どうしたって、新人賞第一号、宝塚が誇るタンバリン芸人・天真みちるを思い出してしまうものが…。それはさておき。6月の「ドン・ジュアン」でヒロインを務めた際には、膝折(猫背では背を縮めたことにはならない!)やドレスさばきなど、娘役の基本所作においていささかの経験不足を感じたが、娘役芸を大いに磨いた上で、彼女の本来もつ面白さや芝居心が発揮されていけば、それこそ最強であろう。舞台人・彩みちるの今後が楽しみである。

 昨年、有力候補として挙げた二人についても、舞台が悪かったということでは決してない。非常に活躍していた。宙組の伶美うらら(95期)については、娘役と女役、その境界線、移行期に在る印象を受けた。星組の礼真琴(95期)については、「桜華に舞え」「ロマンス!!」を観るだに、…目指す男役像がルックス的にアイドル系なのかと思っていたら、逆に、ものすごく重厚なおっさん芸?! それはもう、新人賞ではなく、さらなる高みを目指していくべきであろうと思った次第。それにしても。毎年新たな人材が現れるのが、100年以上続いてきた宝塚歌劇の強み。今後も、「我こそは〜」と期すフレッシュな人材の台頭を大いに楽しみにしたい。

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