2016年あひる心のベスト発表
 今年のテーマは“受け入れる”。状況を受け入れる。運命を受け入れる。他者を受け入れる。自分自身を受け入れる。ときに受け入れがたきことあり、それを受け入れるもまた、人生。

☆壮一帆の舞台
「壮一帆YEAR END DINNER SHOW」〜「カウントダウンパーティ」
「cube三銃士 Mon STARS Concert 〜Returns〜」(ゲスト出演)
「エドウィン・ドルードの謎」
「SO KAZUHO 悲しみよこんにちは」
「Dramatic Musical Collection 2016」(ゲスト出演)
「扉の向こう側」
「壮一帆クリスマスディナーショー2016」

 5月の「SO KAZUHO 悲しみよこんにちは」はシャンソン・コンサート。楽曲一つ一つの世界を深い感情と濃いドラマ性をもって描き出すその歌唱が、シャンソンとの高い親和性をもつことを証明してみせた。とりわけ心に残るのはジャック・ブレルの歌唱で名高い「行かないで」だが、その一方で、彼女にひときわ似合う明るく幸せな歌を歌っていってほしいな…という思いも。

☆蜷川幸雄演出の舞台
「元禄港歌」
さいたまネクストシアター×さいたまゴールドシアター「リチャード二世」
彩の国さいたまシェイクスピア・シリーズ「尺には尺を」

☆四代目市川猿之助の舞台
「元禄港歌」
六月大歌舞伎第一部&第三部
「エノケソ一代記」

☆三谷幸喜作 NHK大河ドラマ「真田丸」&「エノケソ一代記」(演出・出演も)

☆熊川哲也振付・演出 Kバレエ・カンパニーの舞台
「ドン・キホーテ」
「白鳥の湖」
「トリプル・ビル」
「シンデレラ」
「ラ・バヤデール」
「くるみ割り人形」

☆松尾スズキ作・演出・出演「ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン」

☆「ビニールの城」

☆「スカーレット・ピンパーネル」の石丸幹二

☆フィギュアスケーター羽生結弦の演技

他に
・宝塚花組「For the people−リンカーン 自由を求めた男−」「ME AND MY GIRL」の瀬戸かずや
・「家庭内失踪」の風間杜夫 ファジーさが魅力の岩松了の劇世界、その中でヴィヴィッドに生きる人物を巧みな演技で構築。演技賞ものである。
・「8月の家族たち」「鱈々」の木場勝己 妻が不倫してできた、自分の血を分けたのではない息子を、そうとは知らぬふりをして愛おしみ、妻の不倫相手に対しては、親戚として、人間として敬意を払い続ける「8月の家族たち」のチャーリー。ブロードウェイ公演を観た際には印象に残らなかったこの役のドラマ、彼の背負った哀しみ、その優しさを輪郭鮮やかに描き出した。「鱈々」では粋がるグラサン姿も鮮烈に、娘の結婚候補をいかさまギャンブルでカモにするトラック運転手役。飄々とオフビートながら、どこか生きる哀しみを感じさせる役柄の造形だった。
・山下洋輔×勅使河原三郎「up」

 2016年のインスピレーション大賞は、荒井祐子&熊川哲也が踊ったKバレエカンパニー「白鳥の湖」に。チャイコフスキーの魂、その真髄に迫る名演。観劇を超えて、私の生涯の確固たるメルクマールとなった瞬間。そんな瞬間をバレエで味わったという意味では、かつてロイヤル・バレエ団時代に熊川が踊った「スケートをする人々」と双璧を成す。「トリプル・ビル」での荒井の「ラプソディ」、熊川の「アルルの女」も素晴らしかった。同世代の優れたダンサーたちの活躍に、心から敬意を表したい。「ドン・キホーテ」での篠宮佑一の主役デビューについては既に記したが(http://daisy.eplus2.jp/article/434864869.html)、新星・矢内千夏の「白鳥の湖」での主役デビューという話題もあった。若手の台頭もまた目覚ましいところである。
 Kバレエの「白鳥の湖」「ラ・バヤデール」と、美しいバレエ・ブランの場面を観ていると、…最近、厳しく指導にあたるバレエ・ミストレス前田真由子の姿が舞台上に浮かんで見えるような思いにとらわれることがある。「くるみ割り人形」の男性ダンサーの活躍では、バレエ・マスター遅沢佑介の面影ににっこり。荒井祐子はKバレエを支えるKバレエスクールの校長である。熊川哲也芸術監督の美を、多くの人々がその情熱で支えている。その様が美しい。
 「ラプソディ」の荒井祐子の項で、私は、日本の女の子には日本の女の子の美があり、その意味で彼女を美の同志と考えていると記した。そしてまた、日本の男の子にも日本の男の子の美がある。Kバレエのダンサーの活躍を通じて、そんな命題にも取り組んでいきたい。
 日本人にいかなるバレエが可能か。日本人にいかなる美が可能か。その追究はひいては、人間にいかなる美が可能か、そんな普遍性をもった問いかけとも重なっていく。同い年の、美の世界の幼なじみとして、熊川哲也芸術監督と彼が魂をもって率いるKバレエカンパニーの今後の活動に、さらなる大きな期待を寄せたい。

 「♪六月、七月、八、九月/あひるの体調いまいちだった〜」
 ↑だいぶ昔の曲&いささか字余りですが、「圭子の夢は夜ひらく」のメロディでお読みください。いや、今はこうして歌って笑い飛ばせておりますが。Kバレエでは一年のうちにチャイコフスキー三大バレエを上演したというのに、「眠れる森の美女」をどうしても見に行かれず、四代目市川猿之助が歌舞伎座を三か月連続で熱く沸かせているというのに、途中から参加できなくなるという…。夏の暑さにバテバテになりながら、思った。今年は「心のベスト」発表はするべきではないのではないか。というか、体調が戻らなければそもそも発表できないのではないか。体調がよければもっともっと行きたい公演があった。観たい舞台があった。…でも、途中で思い直した。2016年も、いつもの年と同じように、いや、体調がいまいちな分、もしかしたらいつもの年よりも懸命に、あがくように生きた。その軌跡として、やはり書いておくべきではないのか。人生には偶然も、めぐり合わせもある。そのとき体調がよくて観られる舞台もあれば、観られない舞台もある。この先だって老いていく。身体がどうなるかわからない。時間と体力に限りのある不完全な一人の人間が、そのときどきにそれでもベストを尽くして観、書く、生の軌跡。読む人がそれぞれそこに何らかの意味を見出してくれれば、それでいいのではないか――と。
 こうして書いてきて、すべての生の瞬間がとても愛おしく、そんな時間を共に過ごすことのできた皆様に、心から感謝。
 いや、毎年、一年の終わりのこの時期、「…どう考えても後一日、足りない…」と思いながら過ごすのですが。12月26日、ワム!のジョージ・マイケルがクリスマスに息を引き取ったとかつてのジョージの担当である友人からメールが来たときは盛大にダメージを食らい、もはやここまで、もう書けないんじゃないかと…。彼女がジョージの取材に行った際、サインをもらってきてくれたこと。その後、アルバム「ペイシェンス」のライナーノーツ執筆のため、一人ロンドンに出張し、ジョージ・マイケルその人にインタビューできたこと――そのときの担当者も訃報に際し連絡をくれて。それにしても。デヴィッド・ボウイとプリンスとジョージ・マイケルが同じ年に亡くなるって…。それを言ったら、蜷川幸雄と平幹二朗も…。
 「しかし、今、このかけがえのない今、世界はそこにある」(マイケル・フレイン作、平川大作訳「コペンハーゲン」より)。生きている者は生きていかなくてはならない。生の限り。いつかあの世で、かの人たちと笑って出逢うために。
 以前、鬼の事務局つまりは夫(ポケモンGOを始めて以来、5キロ以上の減量に成功!)と、死者をインスピレーション大賞に含めるかどうか話したことがあって、それは違うと思うとの意見により、リヒャルト・シュトラウスを大賞から外したことがあり。
 すべては、同じ時代、共に生きる皆様との大切な時間あってこそ。皆様、2016年も本当にありがとうございました。2017年もよろしくお願い申し上げます。どうか皆様、くれぐれも体調にお気をつけて、よいお年を!

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